
light a candle written by さんた
「ヤス!じゃあまた明日!」
「あ、あぁ。また…」
明日、と言い終わらないうちに、脱兎の如く駆け出して行ったポール。
僕はあっけにとられながらも、リハーサル室を出て行く。
はぁー…。今日のリハーサルも長かった。
オーボエをケースに片付けながら、僕は人知れず溜息をついた。
これから帰って、何か食べたら、リードを作って。
あぁ、先生から出された課題の練習もしなくっちゃ……。
でもこの時間だと、練習……は、無理かな。
重い足取りで、練習会場のホールの出口に向かうと。
「黒木くん!」
「あ…。千秋くん、お疲れさま。」
「お疲れ。……黒木くん、この後何か用事ある?」
「いや。家に帰って、リード作る位だけど?」
「そうか。なら、ちょっとうちに寄って行かないか?一緒にメシ食おう。」
「え、いいの?……ひょっとして、恵ちゃんの料理?(恐る恐る)」
「……黒木くん、大事な公演前にオレがそんな危険なもの食わすと思うか?」
「あっ!そういう意味じゃ、なくてっ!…なんていうか……。」
しどろもどろしている僕に、千秋くんはプッと噴出す。
「気を遣わなくていいよ、黒木くん。大丈夫、アイツに料理はさせないから。じゃ、行こうか?」
「う、うん……。」
※※※※※※※※※
「おじゃまします…。」
一応遠慮がちに、千秋くんのアパルトマンのドアを開ける、と。
パン!
パン!パン!!
突然響いたクラッカーの音に驚く。
「Bonne Anniversaire!ヤス!」
「おたんじょび、オメデトーデス!黒木くーん!」
「ヤス、おめでとう!」
リビングへと続くドアが開け放たれ、覗いている顔は、
恵ちゃん・ターニャ・フランク・リュカ。
そして………さっき別れたばかりの、ポールまで。
僕は…目の前の、思ってもいない出来事に、頭がついていかない。
その場に立ち尽くして、目をまるくしている僕の背中を、
恵ちゃんが早く、早く、と押してリビングに通される。
今日が自分の誕生日だという事すら、すっかり忘れていたのに。
こんな風に皆に祝ってもらうなんて、それだけで涙が滲んできそうだった。
リビングに広げられた料理の数々は、どれもこれも美味しそうで。
聞けば、ほとんどがターニャの手作りで、
(一部リュカのママが作ってくれたものもあるらしいけど)
僕は不謹慎かも知れないけど、ちょっとホッとした。
……ターニャの料理なら、何度か食べた事があるから、美味しいだろうなと思う。
恵ちゃんのピアノで、皆がフランス語で「ハッピーバースデー」を歌ってくれる。
小ぶりなバースデーケーキには、ちゃんと年の数だけ蝋燭が立ってて。
こんな年になってまで、こんな風にろうそくの火を吹き消す事があるなんて、
ちょっと恥ずかしかったけど……。
みんなの気持ちが、とても嬉しかった。
料理を食べながら、ポールはフランクと、それぞれの課題の曲の話をしてる。
リュカは相変わらず、恵ちゃんにベッタリくっついて他愛ない話をしているけど、
その様子を少し離れた場所で、千秋くんが不機嫌そうな顔をして煙草を吸っている。
千秋くん、そんな顔してる位なら、さっさと恵ちゃんを連れ出せばいいのに……。
素直じゃないなぁ、なんて思いながら、料理に舌鼓をうっていた。
やっぱり、ターニャの料理は美味しいな……なんて思いながら。
「ヤス……。」
声をかけられて振り返ると、ターニャが立っていた。
「あ、ターニャ。どうもありがとう。料理、とっても美味しいよ。」
「…ありがと。 ヤス……、これ、あげるわ。」
そう言って、ターニャが差し出す、薄紫色の小さな包み。
「え?!」
「誕生日、って聞いたから。…一応、プレゼント。」
「あ……ありがとう。 開けて見てもいい?」
「いいわよ。」
その小さな包みを開けると、中から現れたのは、カーキ色の毛糸の手袋。
ひと目みて、手編みだとわかるそれは、
手首の部分に、黒い小さなオーボエのアップリケが付いていた。
「これ…ターニャが?」
「うん。サイズとか分からなかったから、合わなかったらゴメン。」
「ううん。…ありがとう。嬉しいよ。」
早速手にはめてみた、その手袋は、自分の手に丁度良く、じんわりと暖かくて
。 僕の心の奥の、小さな蝋燭に火を灯していた事を。
この時の僕は……まだ気づいていなかったんだ。
この時の灯りが、自分の中で燃え広がるのは、
この後の。
また……別の話。
さんたさんのblog:SANTALUCIA
二ノ宮漫画は誕生日にはドライですが、こんな楽しいお祝いがあったらいいですよね。
後半のターニャとの絡みはどきどきしてしまいます。かわいいターニャをありがとう!(そっちかい)
さんたさん、ありがとうございました!
後半のターニャとの絡みはどきどきしてしまいます。かわいいターニャをありがとう!(そっちかい)
さんたさん、ありがとうございました!
